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医者の言った。そのもう一人は右足にギブスをして上から釣られ、ベッドですやすやと眠っていた。
ここまで車椅子を押してくれた看護士さんへ顔を向けてお願いした。
「すみません、二人になれますか?」
「いいですよ。でも、約束通り、五分だけですからね? 五分したら迎えにきます」
その言葉に頭を下げて頷くと、看護士さんはニッコリ微笑んで、病室から出て行った。
俺は車椅子を自分で動かし、ベッドの横に付けた。
手を伸ばしその頬に触れ、そっと親指で撫でた。
「潤君」
「……ん……」
長い睫が震え、瞼がゆっくりと開いていく。
「おはよ」
「……はよ……やっと目覚ましたね……」
「うん」
潤君は左手を伸ばしてくる。俺は少し体を前に出した。そっと俺の頬を包む左手。
その手は記憶のまま、あったかかった。
「体は……? もう起きて大丈夫?」
「うん、俺は大丈夫」
「退院は? 俺はまだ当分出来そうにないよ」
情けない笑顔で、釣られた自分の足を見上げる潤君。
「そっか……俺は明後日だって」
「うん。良かった………シュウ……」
潤君が何か言い掛けた途端、コンコンとドアがノックされた。続いて「入りますよー」の声に、俺の頬を包んでいた手が名残惜しげにスッと離れる。
「はい。佐伯さん時間です。お部屋へ帰りますよ」
入ってきた看護士さんを恨めしく見つめ、しかたないねと潤くんに微笑んだ。
「また後でね」
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