111人が本棚に入れています
本棚に追加
病院で二日を過ごし、俺は無事に退院することができた。
みんな気遣ってくれるけど、俺はみんなが心配するほどボロボロでもなかった。
社員旅行中の大きな事故だっただけに、会社からは特別に有休をもらうことが出来た。俺の部署、ゲーム開発チームで助かったのは俺だけだったから、チーム自体がひとまずは凍結。ソフト会社で成り立っていて、その中のゲーム開発として俺の入社当時に新しく設けられたチームだったから、もしかしたら、このままなくなってしまうのかもしれない。
あの出来事が、ショックじゃなかったのか? と聞かれると、ショックには違いない。チームのみんなとも仲良くやっていたし。
でも、唯一残ってくれたのが最も大切な人だったから、その救いは俺の中で凄く大きかったし、支えになった。
「出かけるの?」
「うん」
「体大丈夫?」
「もう、平気だって。行って来ます」
俺は今日も病院へ向かう。最も大切な人に会いに行くために。
もうすっかり通い慣れた病院。
いつもの病室。笑顔の潤君。
車椅子を押しながら潤君と病院の中庭を散歩するのが最近の俺の日課。
「体の調子どう?」
「潤君ったら、いつもそれ。入院してるのは潤君なんだよ? 俺はお見舞いに来てるんです」
ゆっくりのんびりと歩きながら、木漏れ日に目を細めて返事をした。
潤君は俺の顔を見るたびに同じ質問を繰り返す。
手足の骨折で全治二ヶ月。ボロボロなのは自分の方なのに、俺のことばかり気にかけてくれている。
「あー。そういえば、明日からリハビリするって言われた。やっと自分で動けるぜ!」
「いよいよだね、俺も付き添えたらいいな。ダメかな?」
潤君は俺を振り返り 「くんなよ!」と、一言。プイと前を向いてしまった。そして、小さく 「……恥ずかしいだろ」 とボソと付け足した。
俺は車椅子を押しながらニンマリして言った。
「歯を食いしばって頑張って動く潤君の顔……そそるだろうなぁ~」
「は? ちょっ……」
潤君は焦った様に振り向いて、また前を向いてしまった。耳が赤くなってる。
俺は肩を竦め、俯いて小さく笑った。
最初のコメントを投稿しよう!