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「もう十一月も終わりだっつーのに、あったかいよな。いつ寒くなるんだろう」
東京は未だに夏の名残りを感じさせるような異常な暖かさだ。天気予報では十月上旬の暖かさ。とか言ってたっけ。中庭の木々も紅葉するタイミングがなかなかつかめないみたい。まだ青々とした葉をつけている。
潤君がうろこ雲の広がる空を見上げて前を向いたまま淡々と話しだした。
「気持ちを整理する為、俺なりに調べてみたよ。確かに今から三十年ほど前にアフリカのカメルーンで、今回と同じ様な事故が起きてる。一晩で住民四百人が一斉に亡くなったそうだ。村の背後に数万年前に活動を停止した死火山があって、死火山の山頂は火口湖あったそうだ」
「……うん」
「死火山、または何万年も活動していない活火山、そして湖……。おそらくあの湖も、常時、二酸化炭素の供給を受けていたんだろう。あの日、たまたまなんらかの理由で水温が上昇して、湖面から二酸化炭素を噴出させていたのだと思う。まぁ、これはニュースでも散々流れていたんだけどな」
「……うん」
そう、ニュースでも散々取り上げられていた。家族は気を使ってか、話題には上げない。俺も見ないようにして避けて逃げた。
潤君は強いね。俺と同じ体験をしたのに、ちゃんと向き合ってる。
「秀、覚えてる? 居酒屋でおでん食ったろ?」
「うん。覚えてるよ。潤君が爆睡しちゃったのもね」
俺はわざとおどける口調で返事をした。
「あの夜、風、無かったもんな……」
「うん。無風だった。空気澱んでたね」
悪い条件が幾つも重なった。
無風状態。窪んだ地形。湖のそば。みんなが寝静まった真夜中。
二酸化炭素は空気より重い。山伝いに旅館方面へどんどん流れ込んだ二酸化炭素が、逃げ場のない窪地に溜まって、布団に入って眠ってしまったみんなを飲み込んだんだ。
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