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「……もし、秀と会わなかったら、俺も死んでた」
「俺も」
ううん。俺は同じじゃない。
潤君だったから俺は助かったんだ。潤君じゃなかったら、俺ひとりだったら、今もきっとまだみんなとバスに乗ってるんだよ。
「あの時の事は今も……すごく記憶が曖昧なんだ……なにしろ意識が朦朧としていたから」
「うん。俺もよくわからない。自分の記憶と現実が矛盾してるんだもん」
潤君は俺を振り返り、何か言いかけて、前を向いて口を開いた。
「秀と部屋の前でわかれたろ? 俺は直ぐには眠れなかったんだ……その、久しぶりに秀と会えて、きっとテンション上がってたんだろうな……」
「うん」
「どうも眠れない。風呂でも入ってこようかと浴衣を持ってウロウロしてたら、頭が痛くなってきた。目眩もするし……あれ? と思っているうちに足がもつれて、おもいきり寝ている奴の上に転がっちゃったんだ。その時、初めて気づいた。みんなが静かすぎるって」
俺は潤君の話に息を飲んだ。
相槌を打つ事も忘れて、俺の知らないもうひとつの……三つ目の現実に耳を傾けた。
「誰を起こしても目を覚まさない。救急車を呼ぼうにも圏外になってるし……で、気づいたんだ。自分もヤバイんじゃないかって」
「……」
「この頭痛とか目眩も、なんかの中毒なんじゃないかって……だから、秀の部屋を開けたら……秀は服を着たまま倒れてた」
俺は車椅子のハンドルをギュッと握った。
「とにかくここに居たら危険だと判断して、秀をおぶって居酒屋の方へ戻ろうとしたんだ」
「俺を……起こさな……かったの?」
「起きなかったんだよ……呼んでも、揺すっても……だから、ここに置いてったら間違いなく死んでしまうと思った」
少し覚悟はしてた。
自分の記憶がどこまでが本当で、どこまでが偽物なのか。
でも、……そっか……始めからだったんだね……。
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