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潤君は悔しそうに言った。
「秀をおぶって坂道を登りきるのが……出来なかった。いつもだったら、いつもの俺だったら……でも足に力が入らなくて、坂道の途中で断念した。少しでも秀を旅館から遠ざけようとしたのだけど……」
「うん。ありがと」
潤君は俯いて首を横に振った。
「秀はやっぱり眠ったままで、救急車を呼ばないとマズイと思った。でも、持ってたハズの携帯がなかった。きっと、秀を抱え上げた時に落としたんだと思った」
「うん」
「俺は、服で口と鼻を塞ぎながら、旅館へ戻った。きっと頭がおかしくなっていたんだろう。居酒屋のおじいさんを起こした方がきっと早かっただろうに……」
「異常事態だもん。仕方ないよ」
「……うん……もうさ、こっから記憶がぶっ飛んでるんだ……気付いたら携帯握って湖の展望台だった。どこでどうなったのか、足が痛くて立てないし……」
「展望台……?」
潤君は展望台で目が覚めたんだ。
……骨折はバスから飛び降りて? でも、そんな怪我なんてしてる様子なかった。普通にしっかり俺の手を握って、俺を展望台に連れて行ってくれたのは潤君だ。
でも……俺は、道で発見されたんだ……。
潤君はとまどうような瞳で俺を見る。
そして、ボソッと言った。
「俺、そこで……秀とエッチした……」
「えっ……」
どうして? あれはホントなの?
混乱する俺の目に映ったのは、耳も首も真っ赤になって慌てて否定する潤君だった。
「いや、夢? 夢で? 怖くて秀と一緒に逃げていたんだよ。それで……その……」
ボソボソゴニョゴニョ言葉を濁す潤君が、いきなり顔を上げ俺をまっすぐ見た。
「俺、高校の時から……秀の事……おかしいかもしれないけど……ずっと、す、好きだった。……んだ……」
潤君の急な告白。
俺は頭の中がぐちゃぐちゃだったけど、ぐちゃぐちゃのままに返事をした。
「……俺も。……同じ」
そんな俺に潤君が言った。
「……部屋戻ろう。……ここじゃキスできない」
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