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ドアの一番手前の空いてる座席へ二人で並んで座った。
後ろを振り返ると、部長も、みんなが乗っていた。そしてみんな浴衣姿だった。荷物も持ってなくて、身一つだった。
しかたがないよね。緊急事態だもん。各々が出る準備なんてしだしたら、それこそまとまりが悪くなる。
そう頭で理解しようとするのに、なぜかな? 目の前の光景に違和感が増してくる。
バスの中に女将さんと、中居さんが乗っていた。
昨日、懐中電灯を貸してくれた中居さんだから顔もよく覚えてる。
俺達を迎えに来た。そうだとしても、旅館の人までバスに乗って、わざわざ村へ行く必要があったのかな? しかも二人共、他の従業員と思しき二人も全員浴衣姿。
朝食の準備をしていた時に駆り出されたのなら、ちゃんとした着物を着ているはずなのに。
それに、このバス……古すぎる。なんでこんなバス、今時使ってないでしょ? ってレトロな型。
俺たちが乗ってきた観光バスでもないし、ましてや、潤君たちの乗ってきたバスでもない。
村のものだとしても……ないよね……?
二百メートルか三百メートル足らずの登り坂を上がれば直ぐに村に着くはずなのに、さっきからどこを走っているのだろう? もう十分くらい走ってる気がする。一向に霧は晴れないし。どうしていつまでもこんなに真っ白なんだろう。さっきは高台へ上るにつれて霧はだんだん薄くなっていったのに。行っても行ってもバスのヘッドライトが照らすのは白い霧だけだ。
もう一度後ろを振り返ってみんなを見た。さっきまでニコニコしていた新田さんも、小西君も無表情で目が虚ろ。二人のキャラからしてまるで別人のようだった。
一気に俺の中で不安が爆発し、隣の潤君を勢いよく見た。潤君はそんな俺にゆっくりと頷く。
乗っちゃいけなかったんだ。
潤君の手をギュっと握った。
「このバス……同じところをグルグルと走ってる」
潤君の言葉に後悔ばかりがのしかかって、身体がどんどん竦んでいった。
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