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俺は身体を潤君へ寄せ息だけの声で話した。
「……どうする、降り……る?」
ガタガタと震える車体。リアルに感じる振動。潤君は手をギュッと強く握ると、言った。
「どうするって……降りるならドア開けなきゃ」
冗談みたいな言い方。
顎で目の前の『非常用レバー』を指した。
「俺が引いたら、飛び降りろ。俺も直ぐに飛び降りる」
「一緒にだよ。手を離さない」
潤君は一瞬目を丸くした後、ニヤッと笑った。
「じゃ、一緒に行こう」
俺が潤君の目をまっすぐ見たまま頷くと、潤君は立ち上がり非常用レバーの箱を持った。パカッと外すと、赤いレバーを思い切り下げた。
手動でドアが開く。
「飛ぶぞ!」
掛け声と同時にバスを思いっ切り蹴って二人で手を繋いだまま飛び出した。
「佐伯っっ!」
空中で俺を呼ぶ声に、繋いでない方の腕を顔の盾にして後ろを見た。
新田さんや小西、部長、女将、みんなの手が一斉に俺たちに向かって伸びてきた。
俺達はドサッと体に強い衝撃を受け、そのまま地面にゴロゴロと重なるように転がった。
バスのドアから小西が身を乗り出し叫ぶ少し高い声。
「佐伯さん、戻っ…………なんで……オリタ」
その声は、突然低く地を這うような声になった。まるで怒りに震えんばかりのドスのきいた声。
バスの窓に張り付き俺たちを見下ろす乗客の顔。
「モドレ……オリルナ……モドレ」
幾人もの地鳴りのような声がエコーみたいに脳内に響いた。
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