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静かになった。
すごく静か。
俺はふわっとしたものの中に包まれてた。
明るい世界。
潤君は?
俺は瞼を持ち上げた。
知らない殺風景な天井。愛想のない細長い蛍光灯。レールに区切られた狭い空間。
「秀? 秀ちゃん! 看護士さん!」
「お母さん落ち着いて、ナースコール押せばいいのよ」
周りがうるさい。視線をゆっくり大きく動かした。
「母ちゃ……ん? 姉ちゃんも……」
二人が俺を凄く心配そうに覗き込んでいた。知らない看護士さんが現れる。俺の腕を持ち上げ、脈や血圧を測り始めた。
「先生、直ぐにみえますからね? このまま動かないで下さい。気分は? 気持ち悪くないですか?」
体は凄くだるくて重かったけど吐き気はない。ただ少しモヤモヤするだけ。
俺は何も言わないで首を縦に一度だけ小さく振った。
看護士さんが俺の前からいなくなり、母ちゃん達はホッとした表情になって視界から外れた。
顔を左右に動かして確認する。
俺の両サイドはカーテンで囲まれてた。
「……俺……ひとり……なの?」
「え、そう。そうよ?」
涙腺が緩んだのか涙を拭きながら答える母ちゃん。
「……ほんとに?」
姉ちゃんが厳しい顔付きで言った。
「秀、……会社の皆さんは助からなかったの。あんただけ、助かったの。何があったか覚えてる?」
「覚えてる。みんなの事は知ってる。でも、俺は一人じゃなかった。俺はどこにいたの?」
「警察に聞いた話だけど、あんた外に倒れてたそうよ。救急車が旅館へ向かう途中の道路で、倒れてるあんたを発見したって」
「途中?」
嘘だ。俺は湖の見晴らし台にいた。途中なんてあり得ない。
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