03.BL - 夢の世界で会おうね

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「ほんと、に、す、きで……」  シャッターのように彼のまぶたがゆっくりとおりた。目尻から伝う一筋の涙。ぼくは雫に口付けたあと、動かなくなった彼の躯を抱き寄せた。背を撫でる。頭を胸に抱いた。  すきだなんて今更。そんなこと、ぼくはとうの昔から知っていたよ。彼もそうだったはずだ。  世間の目はぼくらのような人間にとってあまりにも冷たすぎる。得られない理解、同情。だからこうするしかなかった。彼がきえて、ぼくがきえて、向こうの世界で結ばれるしか、それしかなかった。  彼の短い髪をすく。彼はぼくにこうやってしてもらうのが好きだった。ぼくの優しさを感じられるのだと言って、ぼくの胸に頭を寄せて、猫のようにすり寄ってくる。ぼくもまた、そんな可愛い仕草を見せる彼が好きだった。けれどもう見ることはできない。仕方のないことだった。仕方、ない。そんな単純な言葉で終わらせられるほどの想いでしかなかったなんて思いたくないけれどでも、仕方のないことだった。  今からぼくも死のう。彼を向こうに独りにしておくことはできない。包丁を抜いて、それで自身の喉を貫こう。でもその前に、もう少し彼を抱いていたい。 20091210
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