第1章―3

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「まぁ、いいや。他の連中も覚えてるだろ」  みゆきが酒井の背後に目をやると、久しぶり、と皆、声をかけてきた。 「酒井君、久しぶりだね。お、根元じゃん。そして……」  短めの無造作ヘアの男と、男としては長めの髪の男に挨拶をする。  最後の一人のところでみゆきは口ごもった。あ、と口を開いて、次が続かない。メタルフレームの眼鏡をかけた、少し几帳面そうな面差し。 「……上原君……どうも」  他の三人のような気安い態度じゃない。ペコリと頭だけを下げるそんな相手のことに引っかかりを感じた。  そもそもみゆきは、誰とでも気安く話せる人間だ。人間なんだから得意不得意はあるだろうが、それでも会社での飲み会は、ビール瓶を持って全てのメンバーに挨拶をして回る。特に誰かが一人でいることが許せない。臆面も見せず、たとえ初対面の相手でも話が出来るのが、みゆきなのだ。  そのみゆきの戸惑う態度が気になった。でも、そんな姿を見せたのは一瞬だけ。すぐに酒井と話を続けていた。
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