第1章―4

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 職場の仲間に聞いたことがある。記憶の期限ってどれくらいって。  どうだろうね。でも幼稚園の時のことなんて全然覚えてないよね。幼稚園どころか小学校の時のことなんていちいち覚えてる? ほっとんど覚えてないけどさぁ、修学旅行の夜のことだけは覚えてるよ。えー、なになに? 男? そういうロマンスでもあった? あのねぇ、小学生の時の話だよ。手をつないだだけで子供ができると勘違いしてた時代だよ。あぁ、懐かしい。そういう純情な時代もあったよねぇ。  知らない覚えていないと言いつつも、昔話に花を咲かせているうちに、ああだったこうだったと芋づる式に記憶が蘇る仲間たちを目の当たりにして、自分とは違うのだと裕は人知れずため息をついたことがあった。  16歳より過去の記憶がない。その間、どんな経験をしたかは定かではない。しかし、一つだけ言えることがある。父か、兄弟か、それとももっと別の男性か。相手は誰かは分からないが、とにかく男に虐待を受けている。
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