第1章―2

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 普段、”儚い”という言葉を使うことは滅多にない。使おうとしても、そのイメージにピッタリくるものがあまりないのが現実だ。それでも毎年、桜が散るのを目の当たりにすると”儚い”と言う言葉を使いたくなる。  そう、桜が散る様は儚い。息を呑むほどに、そこだけは異世界が広がっている。毎年見ているはずの景色なのに、性懲りもなく美しいと想ってしまう。飽きるなんてことは決してない。  そんな風に我々を魅了するのに、実に引き際が鮮やかなのがまた小憎たらしい。桜の散り始めから葉桜になるまでの変身のなんと見事なことか。あっという間に美しさをひた隠し、花ではなく飽くまでも木なのだということを粛々と我々に知らしめる。  ――と、雑誌の開いたページには、写真とともにどこぞの有名なライターが書いたという文章が書き綴られていた。  どうどう? と読んでいる最中からみゆきが耳元で煩い。写真綺麗でしょ。花見がしたくなるよね。
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