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「それじゃあ桐原さん、御宅の部長によろしくお伝えください。あ!商品サンプルはいつ頃までに用意するといいですかね」
入室した時とは打って変わり、カマキリ、もとい橘課長はまるで大層なコンサートでも聴いた後のように晴れ晴れとした表情で桐原と俺を送り出す。
「後日、また新藤から連絡を入れさせますので」
桐原は求められるがままに握手を返し、名前を出されて俺も慌てて一礼をする。
用は済んだとばかりに足早にオフィスを後にする桐原。
急いでそれに続く俺。
正直、圧倒された。
どんなスキルを使ったら、あんな営業できんのか。
未だ桐原の使った魔術の中にいるようで、ふわふわした頭を揺らしながら俺はヤツの愛車に乗り込み、背中を背凭れに沈ませた。
「………アンタ、何者なんですか……」
俺が二ヶ月粘っても取れなかった契約。
こいつはいとも簡単に数時間で落としやがった。
圧倒的なスキルの差。
嫉妬する気すら失せやがる。
信号待ちの交差点。
すぐ脇に花屋があった。
店頭に並ぶ色とりどりの花。
あれは………、薔薇か。
赤にも、ピンクにも、黄色にも負けず、一際今の俺の心に飛び込んできた大輪の白い薔薇。
ホワイトローズ。
花言葉は。
ーーーーーー深い尊敬。
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