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季節外れの台風が災いしてか、今年は満開の桜をほとんど見る事ができなかった。
毎年恒例の部署ごとの花見飲み会も、桜が散り終わった4月の二週目に入った所でようやく声があがったほどだ。
「幹事は、今年は新藤と佐々木だな。去年はお前ら歓迎される側だったけど、今年は企画頑張ってくれよ?」
タコ部長め。めんどくせー役押し付けやがって。
禿げ上がった額が、怒ると真っ赤に変色することから、自分がタコとあだ名をつけられているとはつゆ知らず、部長は鼻歌を歌いながら奥の部屋に消えていった。
それと同時に同期の佐々木が、キャスター付きの椅子に座ったままスライドして俺の脇にピタリと近付く。
「幹事だってよ。めんどくせー」
来週の合コンの居酒屋を検索していた指を止め、俺は両腕を頭に回して気怠そうに溜息吐き出す。
「タコ様からのご指名だから仕方ないっしょ。俺、場所探すから、佐々木、場所取りと食料仕入れるのと会計よろしく!」
「………ってほとんど全部おれじゃねーか!!!」
佐々木の喚く声を尻目に、ひらりと後手振りながらオフィス飛び出し喫煙室に駆け込んだ。
「…………ゲ」
喫煙室の扉開けた瞬間、固まる思考回路。
「主任……。いらしてたんですねー……」
「悪ィか」
相変わらずぶっきらぼうに、此方をちらりとも見ようとしない。
口に咥えた煙草の先を大きな掌で包み込んで火を灯す。
俯くと長い睫毛がより誇張されて、しばらく見惚れた自分を自己嫌悪した。
「いや、全然……悪くないっすけど……」
いちいち鋭い相手の言葉。綺麗な薔薇には棘があるって、ホントその通りだと思うわ。
居心地悪いその空間に居座る事を決めた俺は、奴と距離を保ちながら灰色の壁に背中を預けて内ポケットから煙草の箱を取り出した。
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