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その箱がやけに軽い事に気付いて小さく舌打ちする。
そうだ。昨日切らしたままだった。
ついてねーの。
箱を握り潰してダストボックスに投げ入れると、小さく会釈だけしてその部屋を出ようとした。
「新藤」
「え?」
振り返ると同時に投げられた小さな箱。
中には高級そうな銀色のジッポが見えている。
「………え?」
「やる」
形の良い唇から緩く紫煙吐き出しながら、静かにアイツが呟いた。
「あ……りがとう、ございます……」
唐突な出来事にいつもの生意気な台詞が見つからず、素直に感謝の言葉を伝えてしまえば、思わず赤面して口ごもり、煙吐き出しながら穴が開くほど見つめてくる上司を見上げ、もう一度小さく頭を下げる。
桐原は煙草を灰皿に押し付けて壁に凭れていた体重を中心に戻すと、スマートに身嗜みを整えて扉近くに突っ立ったままの俺に近付き。
そして。
俺の額に大きな掌の当てて。
「お礼、素直に言えるンじゃねェか」
ふっ…………と。
笑った。
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