薔薇の棘って毒がある?

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「………藤。新藤!!!」 聞き覚えのある間抜けた声と 大音量で流れる馬鹿馬鹿しい英語の歌詞が急激な脳天を貫いた。 「………っる、せーー……」 思わず耳を覆い、声の主を睨み上げる。 「ボーっとしすぎだっつの。水割り?ロック?」 「んあ……、、、ソーダ割り……」 そうだ。俺は仕事終わりに佐々木と行きつけのBARに来てたんだった。 喫煙室からどうやって出てきたのか、今日一日どんな顔で仕事していたのか、全く思い出せない。 一体どうしちまったんだ、俺は。 「マスター、やっぱロックで」 忘れよう。 あの顔。 初めて見た、あの無防備な笑った顔。 片方の眉だけ器用に上げて、人を殺した事ありそうな眼なんか細めちゃって。 罵倒しか出てこないあの唇の口角が、あんな風に上がるなんて思いもしなかった。 ずりーよ。 ホント、ずるすぎる。 「だから、今年の新人が榎本一人だろ。あと歓迎会対象なのは、桐原主任だけでいいのか?」 「き……り、はら!?」 俺の素っ頓狂な声に佐々木は驚いたように目を見開いた。 「そうだろ?国際交流の方からうちの営業のチーフに今年から変わったんだから、歓迎会対象だろ?」 「あ。あ、うん、そうだ、そうだよな。いや、突然主任の名前聞いたもんだからちょっと驚いただけ、だよ」 佐々木は訝しむように眉寄せるもそれ以上詮索もせず、歓迎会の場所を決めるのに携帯を取り出した。 画面スクロールするのに夢中になってくれたおかげで、俺の七変化な顔色は悟られずに済みそうだ。まぁ、馬鹿で鈍感な佐々木のことだから俺の心中までわかりっこねぇだろうけど。 俺は頭を抱えて溜息を隠れて吐き出す。 「あれ?新藤、煙草変えた?」 俺の掌に握り締められたままの皺になった煙草の箱に気付いた佐々木が、不思議そうにそれに手を伸ばした。 「触んな!!!!」 佐々木の手を振り払った瞬間、空気が止まった。
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