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俺がいい加減に選んだその居酒屋は、意外にもみんなに好評で、賞賛の言葉をいただきながら、先輩らのお酌にと駆けずり回る午後7時。
アイツが主役の歓迎会なのに、当の本人の姿は無い。
「あの、タ……、部長。桐原主任は……?」
飲んでも赤く茹で上がるんだな…と呟きは心の中で抑え、もう既に出来上がった上司に声をかけると、部長はビールジョッキ片手に機嫌良く目尻を下げて豪快に笑った。
「んあーー? 桐原~? アイツの事だからまだ仕事してんじゃねぇのかぁ~?アイツ仕事人間だからなぁ~。いいか、新藤。桐原はこれから会社を背負って立つ人間だー。しーーーっかりとアイツにしがみついとくんだぞ~?」
呂律が回らなくなり始めている部長のありがたーい話を、はいはいと頷いて聞いた後、店の入り口の扉辺りを振り返る。
まだ来る気配は無い。
「新藤ーーーー、ビールおかわりーーーー」
「新藤くーん、から揚げまだ~?」
「あー、はいはいはい。ちょっと待ってくださいね~っ」
酔っ払い達を片手であしらいながら、メモ用紙に注文の品を書き込んでいく。
「ビールいくつですかー?五人~?あとは?ファジーネーブルにスクリュードライバーねー。あといいっすかー?」
額に滲んだ汗を袖で拭い、グラスや食器の音が重なる騒々しいその個室から逃げるように飛び出した。
部屋と廊下を遮る障子を閉じても未だ馬鹿騒ぎは耳の奥で響いてくる。
「あーーーー、疲れた………」
アルバイトの可愛いお姉さんに注文書いた紙を手渡し、ついでに自分の携帯番号付け足すのも忘れない。
柔らかい栗色に染めた長い髪の毛を一つに纏めたあの後れ毛が堪らないんだよね。
アルバイトの女の子が厨房の奥からちらりと此方をみて、可愛くはにかむ。
ようやく本調子を取り戻し始めた俺も、気のあるそぶり忘れずに意味ありげに視線を送って彼女に手を振った。
「相変わらず見境ねェな、てめェは」
「ーーーーーーッ!!!!!」
背後からのセクシーボイスに、心臓が飛び出さんばかりに跳ね上がった。
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