毒はいつしか蜜の味

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「しゅに………っ…」 「たく、酷い目にあった。お前と佐々木の報告書。改行もフォントもめちゃくちゃで、直すのに今までかかったぞ」 疲れた表情で首の骨をコキコキ鳴らすと、いそいそと現れたさっきのアルバイトに薄手のコートを手渡してわざとらしく溜息を吐き出す。 少し手が触れたのか、頬を染めた彼女が小走りでコートを掛けに行く姿が目の端に消えた。 さっき、俺じゃなくて俺の後ろにいた人をちらちら見てたわけね、君は。 「ああ…、そりゃすみませんでしたねーだ……」 開口一番の台詞が自分への文句で、何故か俺は不貞腐れて口を尖らす。 「何拗ねてんだよ、いつもの事だろ」 これまた高そうな鞄で頭を小突かれ、構ってもらえた嬉しさからか、小突かれた場所摩りながら口元が緩んだ。 「おせーから、今日は来ねーのかと思った……、思いましたよ」 「誰のせいだ、誰の」 相変わらずの無表情。 笑えばいいのに。 こないだみたいに。 笑え。 「おかげで酒が美味そうだなァ?」 主任は座敷に上がる為に靴を脱ぎ始める。 俺の独り占めの時間はもう終わり。 「しゅ、主任の割には仕事時間かかりすぎじゃないっすか?俺のミスの後始末なんて、たいした事ないでしょ」 もう少しだけ独り占めしたくて、障子を開けようとした主任の後ろ姿に嫌味な言葉を投げてしまった。 ゆっくりと振り返る主任。 いちいちその動作までもが綺麗で、俺は息を飲み込む。 俺より頭一つ高い主任は、お互いの距離を詰めて俺に近づき、長い指で俺の色が抜けた前髪にそっと触れて意地悪く口角を吊り上げた。 「寂しかったなら素直にそう言え。天邪鬼なヤツだな」 「ーーーーーーち、ちげーよ!馬鹿上司!!!!!」 喉をくつくつと鳴らして嫌味に笑うと、アイツは愉しそうに背を向ける。 「俺に後始末させた罰として、今日はせっせと働けよ?」 やっぱりコイツ、大嫌いだ!!!!!
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