毒はいつしか蜜の味

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戦慄が走った。 背筋を嫌な汗が伝って行く。 「……え?な、何言ってんの、お前」 「桐原主任の煙草は、ドイツから特別に取り寄せている珍しい銘柄なんです。貴方如きが吸える代物じゃない。それがなんで貴方から匂うんですか?貴方は桐原主任とどういう関係………」 「ちょ、ちょっと待った!お前何勘違いしてるのか知らねーけどな。アイツと俺は上司と部下なだけよ?そんな気持ちわりー妄想、よく考えるな。しかもちょいちょい俺を蔑視するような表現しやがったが、お前、俺の後輩だからな!?」 榎本の言葉を途中で遮ったせいか、ますます不機嫌そうに眉を寄せて睨みあげてくる。 「たかだか一年早く産まれただけじゃないですか。しかも貴方12月24日生まれで、僕は4月生まれですから実質3ヶ月しか変わりませんよ」 「あのねぇ、社会に出たら先輩は先輩なの。だいたいお前主任の煙草の銘柄といい、俺の誕生日といい、プライベート探りすぎだぞ。気持ち悪いヤツだな」 「何とでも。はっきり言っときますが、貴方目障りなんですよ。桐原主任の周りをうろちょろうろちょろ。今後僕の邪魔をするようでしたら、此方にも考えがありますので」 「お前の邪魔って………」 榎本は自分の鞄の中から、勢い良く数冊の冊子を取り出し、俺の前に積み上げた。 「なんだよ……。これ……」 恐る恐る一番上の冊子を手に取る。 「ここにあるのはほんの一部ですが」 見てはいけないと思いながらも、好奇心という誘惑に勝てず、俺は表紙を捲った。そこには桐原の写真が所狭しと貼られている。どれもカメラ目線じゃない所をみると、恐らく全部隠し撮りだ。 「これ……、全部かよ……」 「ほんの一部と言ったでしょう」 桐原の写真だらけの部屋で生活しているこいつの姿が想像出来てしまった。 「最近貴方がうろちょろするせいで、全くいい写真が撮れません。ホントいい加減にしてください」 「知らねーよ!お前がいい加減にしろよ。これ、犯罪すれすれだぞ。いや、もう犯罪かも」 薄気味悪くなり、俺はそのアルバムを慌てて閉じると相手に突き返した。
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