67人が本棚に入れています
本棚に追加
恋ってのはね。
一度自覚しちまうと、ジェットコースター並みに一気に滑り落ちていくものなんだ。
百戦錬磨の俺が言うんだから、間違いないの。アンダースタンド?
「……で、一体何処の誰に恋をしたというのですか?」
夜中の訪問にも関わらず、従兄弟の陸は嫌な顔一つせず、晩酌の準備までして俺を出迎えてくれた。
新藤陸。28歳
同じ会社の総務部主任。
ガキの頃から慕ってきた、本当の兄貴みたいな存在だ。
俺はその陸が用意してくれたいつもの焼酎セットに手を伸ばすと、グラスに液体を注ぎ入れる。
「お酒はこないだで懲りたんじゃないんですか?」
陸はトレードマークらしい銀縁の眼鏡を押し上げて、呆れたように呟いた。
「君はね、惚れただの何だの騒ぐ癖に一回寝たらいつも飽きるでしょう」
「………」
返す言葉も無く、俺はテーブルに突っ伏した。
「酔っ払うたびにマンションに女性を連れ込んで…。今回もその程度でしょう、どうせ」
「……そうなのかなぁ~……」
「そうですよ」
片方の肘を硝子のテーブルについて、陸は穏やかに微笑んだ。
俺は不貞腐れて、グラスの中の液体を一気に飲み干すと、再びテーブルに突っ伏す。
「こないだ、俺、どうやって帰ってきたんだろ……?」
「こないだの歓迎会の時ですか。君はかなり酷く泥酔していて、君の部の主任、……確か、桐原君、でしたっけ。彼がタクシーで送ってくれましたよ」
「………陸、うちに来てたんだ」
不規則な俺の生活を心配してか、お袋はマンションの合鍵を陸に渡しており、陸は時々俺の様子を見たり、掃除をしたりしにマンションに現れる。
陸は仕事の途中だったのか、俺に背を向けてパソコンの電源を入れた。
「桐原主任さぁ~…、なんか言ってた?どんな感じだった?」
「さぁ、特に何も。あ、僕がいることに多少驚いたような表情はしてましたが」
…………特に何も、か。
酔っ払ってとんでもない事を口走ったのは事実。
その後桐原は顔色一つ変えず、今までと何も変わらない。
まぁ、そりゃそーだよな。
前と変わらず接してくれるだけ、ありがたいと思わなきゃ。
最初のコメントを投稿しよう!