毒を持って毒を制す!

2/9
前へ
/35ページ
次へ
恋ってのはね。 一度自覚しちまうと、ジェットコースター並みに一気に滑り落ちていくものなんだ。 百戦錬磨の俺が言うんだから、間違いないの。アンダースタンド? 「……で、一体何処の誰に恋をしたというのですか?」 夜中の訪問にも関わらず、従兄弟の陸は嫌な顔一つせず、晩酌の準備までして俺を出迎えてくれた。 新藤陸。28歳 同じ会社の総務部主任。 ガキの頃から慕ってきた、本当の兄貴みたいな存在だ。 俺はその陸が用意してくれたいつもの焼酎セットに手を伸ばすと、グラスに液体を注ぎ入れる。 「お酒はこないだで懲りたんじゃないんですか?」 陸はトレードマークらしい銀縁の眼鏡を押し上げて、呆れたように呟いた。 「君はね、惚れただの何だの騒ぐ癖に一回寝たらいつも飽きるでしょう」 「………」 返す言葉も無く、俺はテーブルに突っ伏した。 「酔っ払うたびにマンションに女性を連れ込んで…。今回もその程度でしょう、どうせ」 「……そうなのかなぁ~……」 「そうですよ」 片方の肘を硝子のテーブルについて、陸は穏やかに微笑んだ。 俺は不貞腐れて、グラスの中の液体を一気に飲み干すと、再びテーブルに突っ伏す。 「こないだ、俺、どうやって帰ってきたんだろ……?」 「こないだの歓迎会の時ですか。君はかなり酷く泥酔していて、君の部の主任、……確か、桐原君、でしたっけ。彼がタクシーで送ってくれましたよ」 「………陸、うちに来てたんだ」 不規則な俺の生活を心配してか、お袋はマンションの合鍵を陸に渡しており、陸は時々俺の様子を見たり、掃除をしたりしにマンションに現れる。 陸は仕事の途中だったのか、俺に背を向けてパソコンの電源を入れた。 「桐原主任さぁ~…、なんか言ってた?どんな感じだった?」 「さぁ、特に何も。あ、僕がいることに多少驚いたような表情はしてましたが」 …………特に何も、か。 酔っ払ってとんでもない事を口走ったのは事実。 その後桐原は顔色一つ変えず、今までと何も変わらない。 まぁ、そりゃそーだよな。 前と変わらず接してくれるだけ、ありがたいと思わなきゃ。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

67人が本棚に入れています
本棚に追加