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「………」
重たいだけの無言な時間が過ぎていく。
カツンーーー、と後ろから靴底が響く音がした。
密室だからか余計に響く。
後ろに熱い体温感じるほどに、アイツが背後に迫っているのが分かって生唾を飲み込んだ。
背中から被さる影。
長い腕が俺の顔の脇を通り過ぎ、目の前の壁にトンと掌が当たる音がした。
なにコレなにコレなにコレーーーーーー!!!!!
後ろからの壁ドンとか、何ていう少女漫画だよ!!!!
リアルでやられるときっと総毛立つはずの壁ドンも、イケメン王子様にやられれば本気で心臓ワシ掴みにされんのな?
「新藤」
低く地を這う甘い声。
俺は硬く瞼を閉じる。
「………遅刻するぞ」
桐原の長い指が壁を弄り、営業部のある7の階のボタンを押すと、そこがオレンジ色に点灯した。と同時にゆっくりと影も、体温も離れていく。
息をするのも忘れる程、一瞬の出来事。
首筋まで熱く火照り、俺は直す暇のなかった寝癖のついた頭をポリポリ掻きながら、ゆっくりと振り返る。
まさかとは思うけど………。
まさかとは思うけど…………。
「桐原主任……、わざとやってます?」
腕組みをし、壁に凭れて俺の七変化を眺めていた主任は、俺の台詞を聞いた後、意地悪そうに片眉を上げ、双眸を細めて愉快そうにこう言った。
「お前はホント、飽きねェ奴だなァ…?」
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