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桐原亜久。
27歳。
最年少でスピード出世の後、俺のいる営業部チーフに抜擢された、言わば選び抜かれたエリート中のエリート。
身長は180近く、スラリと長い手足は今流行りの俳優そのもの。
パリッと高級ブランドスーツを着こなして、歩けば必ず男女問わず振り返る、絶世の美人。
が、反して。
とんでもなく性格が悪く、いつも俺の感情を逆撫でする最悪なオトコ。
意地悪で、無愛想で、人生楽しい事、仕事以外何にもねーんじゃないかってくらいの仕事人間。
なのに…。
大嫌いな筈なのに。
いちいち、一つ一つの動作を目で追っちまってる乙女な俺。
「恋だな」
間抜けな声に怒りを感じて振り返ると、声以上に間抜けな面した佐々木が立っていた。
「榎本の奴、完全に主任に恋しちまってんな」
佐々木の顎の先には、主任の動きをうっとりと眺める榎本の姿があった。
「………」
「まぁでも、そこらの女より断然可愛いもんなぁ、アイツ。主任も案外、榎本ならありなんじゃねぇ?」
榎本ならあり、ねぇ。
そりゃ確かに、俺はオトコですよ。完全な。
筋肉だって適当にあるし、首だって太いし、何より大事なモンがちゃんとついてますから。
だから、普通じゃないって事くらい分かってはいるんだ。
この感情がおかしい事くらい分かってる。
でも抑えられない。
これじゃあ変態榎本と一緒じゃねーか。
俺は自嘲気味に溜息吐き出して、自分のデスクに鞄を放り投げた。
「冬馬」
今朝聞いたばかりの懐かしい声が聞こえた。
「陸!!?」
入り口で、いつも優しい従兄弟が、軽く手を上げて俺を呼んだ。
俺も手を振りかえすと、陸に駆け寄る。
「昨日の忘れ物ですよ」
手渡されたのは、マンションの鍵。
一瞬期待してしまった。
「どうしました?」
「ねぇ、陸、他に無かった?ほら、その……、煙草とか…」
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