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「煙草……ですか。………さぁ」
分かってはいたけど、少しは期待していたせいか、がっくりと肩を下げる。
「煙草なら買ってきましょうか?」
「ううん、いい」
あからさまに元気が無くなった俺を心配そうに一瞥した後、陸はふと俺の背後に視線をやり、その瞬間、ピリッと電気が走ったように感じて俺は顔を上げた。
「先日はどうも。桐原主任」
「いえ。新藤に何か」
何時の間にか側に来ていた桐原に話しかける陸の声が、何だか普段と違って聞こえ、俺は不穏な気配を感じて二人を見やる。
「昨日うちに泊まった時に忘れ物をしていきましたので、それを届けに」
『泊まった』がどこか強調されたような気がしないでもない。
桐原は納得したように会釈をして、その場を去ろうとした。その時。
陸が一枚の名刺を取り出して、桐原に差し出した。
「今後、冬馬が飲み会の席で潰れた際には此方に連絡を下さいますか。貴方に送っていただくなど、迷惑をかけてしまいますので」
「………陸?」
「僕が責任を持って冬馬を迎えに行きますので、ご安心を」
冷笑を浮かべて、陸が氷のように冷たい言葉を言い放った。
「陸、何言って……」
「君は黙っていなさい」
こんなに機嫌の悪い陸を見るのは初めてだった。
俺は主任の表情を見るのが怖くて拳握り締めたまま、小さく固まる。
怒っている陸を見た事がないから、どうやって宥めていいのか分からない。
「………わかりました」
主任の、吐息を吐き出すような声が聞こえた。
「が、ご心配無く。今後あそこまで悪酔いさせる事なく、きちんと私が監視致しますので」
丁寧だけどはっきりと拒絶の意を表す主任の言葉。桐原は陸の名刺を掌で制し、それから鋭い眼光俺に向けて表情変えずに命令した。
「と、いうワケだから、今後飲む時は俺から離れンじゃねェぞ、糞ガキ」
陸の眼の色が変わった。
踵を返して去って行く主任。
「ちょ、待てって……!陸、ごめん!ーーーー主任ーー!!」
榎本といい陸といい、何だか問題が山積みになってきたのは気のせい………!?
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