毒を持って毒を制す!

8/9
前へ
/35ページ
次へ
「佐々木、お前の報告書、誤字脱字改行フォントめちゃくちゃだぞ!今すぐやり直して俺の所に持って来い!」 いつにも増して不機嫌な鬼上司の怒声がオフィスに響く。 「主任、めっちゃ機嫌悪いんだけど……」 見るも無惨な程に肩を落として書類を受け取りに行く佐々木の後ろ姿を見送りながら、俺は心の中で謝った。 ごめん、佐々木。 多分俺のせいだ……。 桐原の機嫌の悪さが増したのは、陸に絡まれてからだもんなー…。 陸も何もあんな喧嘩腰に言わなくてもいいのに。ホント過保護過ぎんだよね…。 「新藤!」 「はい?」 急に矛先変えられて、俺はビクッと背筋を伸ばす。 「K製薬会社との契約、どうなってる?」 「え?あ、、、今から外回りついでに寄って来ようかな~…と」 「俺も行く」 「は!?」 言うが早いか、俺の返事も待たず、アルマ◯ーニのトレンチコートを颯爽と羽織ると、足早に廊下に向かっていく。 「ちょ……っ…、主任!」 火の粉が自分達に掛からず、安堵する同僚達に見送られ、俺もコートを引っ掴むと、慌てて上司の後を追いかけた。 自家用車出勤が認められている桐原は、会社の駐車場に向かい、高級車並ぶ一角に向けてキーレスを向けた。 音が鳴り、ヤツの愛車らしき誰もが名前を知っている超高級車がハザードを点滅させた。 「うわ、すげ……。これ、アンタの車!? 一体いくら稼いでんのよ」 感嘆の溜息吐いて、俺は恐る恐る助手席の黒く艶めく扉を開ける。 「無駄口叩かずさっさと乗れ」 相変わらず愛想も何もない冷たい言葉で俺を蹴落とすと、桐原はエンジンを掛けた。 座った途端、シートベルトが自動で俺の上半身を縛り付けてくる。 「うわ、ハイテク。これこそ無駄じゃないっすか?」 「うるせェ、行くぞ」 俺に一瞥くれると、車を静かに発進させた。 俺はその高級感漂いすぎてしっくりこない皮の座席に背中を埋めて、大人しく景色を眺めた。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

67人が本棚に入れています
本棚に追加