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「お待たせ致しました。12階の第2会議室にてお待ち頂くよう言伝がありました」
先程のそれほど美人とも言い難い受付嬢が、時間が経つほど紅くなる頬と共に、上目遣いで桐原に話しかける。
俺は眼中にないワケね、はいはい。
「はい、ドーモドーモ。ありがとねー!主任、行きますよ!」
その甘ったるい空気を遮るかのように間に割って入ると、彼女に愛想笑い返して主任の腕を引っ張り、エレベーターまで足早に歩いて行く。
エレベーターに乗ると同時に奥に奴を押し込み、振り返ると、例の彼女が何か言いたげにまだ此方を見ていた。
手元の小さな紙を俺は見逃さない。
扉がしまり、12のボタンを押すと、俺は桐原に向き合った。
「あのねぇ、主任。その無自覚な色気の垂れ流し、勘弁してもらえます?」
「………はァ?」
「さっきの女の子、アレ完全に恋しちゃってますよ?それから他にも!誰彼構わずエロい空気流すのやめてもらえませんかね?」
「誰がエロい空気だ、誰が。大体てめェに迷惑かけてねェだろうが」
「かけられてるんすよ!アンタが知らない所で!絡まれたりしてるんだからな!!」
「誰にだよ」
「だから、えのも………」
言いかけて思わず口を噤んだ。
あぶねー…。思わずバラしちまうところだった。
嫌な汗が背中を伝う。
「いや…、だから、その、い、いろいろだよ!」
アイツが怪訝そうに眉寄せた所で、エレベーターの無機質なベルの音が鳴り扉がゆっくりと開いた。
「変な物でも喰ったンじゃねェか」
俺の頭に掌をポンと置くと、桐原は箱を出て会議室に向かい歩いて行く。
何をイライラしてんだ、俺は。
榎本に絡まれた事が迷惑なのか。
桐原ばっかり女子にモテるのが気に入らないのか。
それとも。
誰かが桐原に好意を持つのが気に喰わないのか。
もう、自分の感情が、何が何だかわからない。
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