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指定された会議室は、会議用机が予めロの字に設定されてある研修などに使われる類の質素な部屋だった。
桐原が鞄から今回のプレゼンで使用した資料を出して並べている間、俺は手持ち無沙汰に窓の外をぼんやり眺める。
うちの会社の会議室から見たのと変わりばえしない退屈な景色。
扉のノックの音で、俺は喉まで出かかった欠伸を飲み込んだ。
「お待たせして申し訳ない」
扉の間からにょろっと細い身体を滑り込ませて、俺がどうしても生理的に受け入れ難い其奴が微笑浮かべて入室してきた。
「今日は其方の主任さんがみえてるという事で、急いで切り上げてきましたよ」
「時間を取らせてしまい、申し訳ありません」
聞き様によっては嫌味にも取れるカマキリの言葉にも動じず、桐原は軽く頭を下げ、仰々しく名刺のやり取りを終わらせる。
「いつもうちの新藤がご迷惑をお掛けしております」
「いやいや、迷惑なんかー。来るたびに女性社員に携帯番号聞いたり、遊びに誘うのくらいどうって事ないですよ」
すぐに目を反らせた。
突き刺さるようなアイツの視線で、こめかみが火傷しそうだ……。
「さっそく本題ですが……」
桐原は視線の先を俺からカマキリに切り替えると、不意にトーンを下げて営業モードに入った。
思えば奴が営業部に赴任してきてから、部下を怒鳴ったり、パソコン弄ったりしてるのは見たことあるけど、実際に他社とコンタクト取ってる姿は見たことがない。
淡々と商品の説明をしてるように見えて、その声色、抑揚、テンポ、独特の色香ににあっという間に相手が引き込まれていくのが分かった。
桐原の言葉は、まるで心地いい音楽を聴いているかのように相手を自分の内に誘い、
「以上ですが…、ご質問は」
終わる頃には驚くほどすっかり、魅了してしまっていた。
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