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結局居残り決定。
何が楽しくてこんな薄暗いオフィスに上司と二人きりになんなきゃならないの……。
かの上司は、俺の重ーい溜息に気づいてんのか気づいてねーのか、さっきからこっちをちらりとも見ず、何やら忙しそうにパソコンカタカタ鳴らしてる。
「桐原しゅにーん。もう帰っていいですよー?俺もうデートは諦めましたから。真面目に提出してきますって」
監視されてるようで何だか居心地が悪い。
冬の始めの空は19時でももう真っ暗で、何だか騒々しいほどにネオンが明るく見える。
そんな景色を背にして、デスクに座っている桐原がふっと顔を上げた。
へー。
夜パソコンやる時は眼鏡かけるんだ。
静かな動きで眼鏡を外す姿に、思わずどきりと胸が高鳴る。
ーーーーーーーーん?
どきりと?
「昨日飲み過ぎたせいかな……?」
「無駄口叩いてる暇があったらとっとと仕事しろ」
「むかッ」
あーそうですか。
気遣うのもダメですか。
「ホント口わりーなぁ!生まれつき?」
「なワケねェだろ」
「アンタ友達いねーだろ。超嫌われてそうだもん」
「そりゃドーモ」
「ほめてねーし」
糠にクギっちゃ、この事かよ。
俺の渾身の嫌味も全然通じねぇ。
「ねぇ、桐原さーん」
「仕事しろ」
「彼女とかいんの?」
「…………」
一瞬揺らいだ瞳の動きを見逃さなかった。
「え?マジ!? 今動揺した!?」
桐原は無言で再び眼鏡を掛けると、俺の問いには答えずパソコンに目を落とした。
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