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「えーっ、ちょっと桐原主任、彼女いんですかー? こんな鉄仮面なのに!?会社の女のコ達泣いちゃいますね」
相手のプライバシーを垣間見れたのが嬉しくて、思わず饒舌になる俺。
「うるせェよ。さっさとやれ」
また鉄仮面に戻ってしまったその瞳は、もう微動だに揺らぐ気色が無い。
「つまんねーの」
それにしても。
へー。
ふーん。
桐原主任、恋人いるんだ。
そりゃそうだよな。眉目秀麗、才色兼備。上司からは買われ、俺を除いた部下からは慕われ。そんな完璧な男に恋人がいないわけないじゃないか。
どんな人だろう。
主任の彼女なんだから、飛びっきりの美人じゃないと釣り合わない。
会社の中にいるのかな。
いやいや、桐原主任の隣に立ってても見劣りしない女は今の所お目にかかった事がない。
恋人がいるって事は、あの綺麗な顔で、指で、身体で。
いろいろ。恋人ならすべき事をしちゃってるワケで。
「………藤」
ぼんやりと見詰めていた輪郭が何だか物凄く近くに感じる。
柔らかそうな黒髪。
目元を縁取る長い睫毛。
少し厚めのセクシーな唇。
鼓膜近くで響いた声がその唇から紡がれた事に気付くのに、しばらく時間が掛かった。
「新藤!」
鼓膜が震える。
「ーーーーーーーーっわぁッッッ!!!!」
目の前の風景が反転した。
「何やってンだよ、お前は……」
見事に椅子から転げ落ちて床に尻餅つきそうになった俺の腕を、長い指がしっかりと掴んで引き起こされる。
「き……りはら、主任……」
「急にボーッとしやがって。具合でも悪いのか」
「いや……、あの……。ちょっと考え事を…………」
間近で見るアイツの整い過ぎた顔立ちは、今の俺には刺激が強すぎて赤面隠すように腕を振り払って背中を向ける。妄想掻き消すように髪を掻き毟りながら、必死で苦笑いを浮かべた。
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