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苛立ちながらふと足元を見ると、靴を履いたままだった。
靴脱がなきゃ、と思い足を上げて手をかかとに持っていったとき、ズボンのポケットに違和感を感じた。
いつもはハンカチが入ってるだけなのだが、がさっとした感触を感じたのだ。
不思議に思ってポケットをまさぐると、中から紙が数枚出てきた。
それにさっと目を通すと、かなり達筆な文字で何か書かれている。
「これって……ラフィルア姉さんが書いたのかな? どれどれ」
──拝啓、響。今あなたが居る場所は日本ではなく、あたしが書いた小説の舞台だよ。
剣や魔法が飛び交うファンタジーな世界だから期待しててね。
あ、でも流石にあたしより力の無い響だと、簡単に死んじゃうからお守りあげるね。死んでも最初からスタートだから、時間かかっちゃうけどね。
それとそっちで一年くらい過ごしても日本では二~三時間くらいしか経過しないので、思う存分楽しんできてね!
あたしは面白い事を期待しながら響の行動をここから見守っているから。
では、あでぃおすあみーご!
響はそれを読み終わった後、紙を破り捨てた。
「ふっざけんなーーーー!!」
何が楽しんでね、だ!
何がすぐ死んじゃうだ!
何があでぃおすあみーご、だ!
絶対帰ったら殴ってやる!
制裁だ!
息切れしつつ一頻り叫んだあと、響は冷静に考えた。
どうやって姉さんは、僕をこんな所へ?
あの熊の人形が元凶か?
いやそもそもこれ現実か?
リアルな夢でも見ているんじゃないのか?
……だめだ。疑問ばかりで答えが見えない。
響は再び窓まで行き、町並みを眺める。どうやら真下は大通りに面しているらしく、それなりの人が行き来している。
流石に新宿や渋谷などの大都市と比べると可愛いものだが、人が途絶えることはない。
ふと響は空を見上げる。澄み切った青空と、白い雲が鮮やかなコントラストを描いている。
とても澄んだ空気で、都会によくある澱んだ風ではない。
「やっぱりここ日本じゃないよね。はぁ……」
大きなため息をついてから、とりあえず外に出てみようと思い窓を閉めた。
「あれ? 腕輪??」
何故今まで気がつかなかったのだろう、見たことも無い装飾の腕輪が左腕に付けられていた。
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