第一章

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 銀色の腕輪には青色の小さな宝石がいくつも埋め込まれ、そして淵に沿って見たことも無い文字が書かれている。  また一番大きな丸い宝石にも同じように文字が書かれていた。 「こんな腕輪見たこと無いな。宝石もなんだろう? サファイアっぽいけど、何となく違うし? 文字もアラビア語っぽいけど、そんなもの読めるわけないよ……。あ、姉さんの手紙にお守りって書いてあったけど、もしかしてこれがお守りなのかな」  腕輪に書いてある文字をじっと見ていると、何故か少しずつ文字が理解できるようになってきた。 「おかしい、何故分かるんだろ? まあそれは良いとして読んでみよう。どれどれ……」  それにはこう書かれていた。 ──我は契約する、天空を支配し大いなる蒼き風。我は汝の真名を呼ぶ、支配する、天の怒りを操る者を。我が名はヒビキ。汝チグサ=ノトス=アルフォイル=ウィンドを支配せし者。  それを口に出して呟いたとき、ふと気がつく。  何で僕の名前が?  その疑問が頭を掠めたとき、部屋の中に一陣の風が吹いた。 「え?」  咄嗟に窓を見るが、先ほど響自身がしっかり窓を閉めていた。風が入ってくる余地はまるでない。なのにどこからこの風が吹いているのだろうか。  それは響の持つ腕輪の中で一番大きな宝石から吹いていた。  それに気がついた響が宝石を見ると、さっき読んでいた文字が淡く光っている。その文字が次第に点滅し、それに呼応するように風が強くなっていく。  慌てて腕から外そうとするものの、ぴくりとも動かなかった。  それどころか、次第に身体中の力が抜けていく感覚に襲われる。 「わ、な、なんだこれ?!」  そう叫んだ途端宝石が眩いばかりに光だし、響の視界を奪った。  咄嗟に目を塞いでついでに耳も手で押さえた。風に煽られないよう更にしゃがみ込む。  そして一分ほども経過しただろうか、いつの間にか風の吹く音が消えていたのに気がついた。おそるおそる塞いでいた目を開ける響。  蒼く光る透明な四枚の羽が生えた妖精が、響の目の前で優雅に羽ばたいていた。  いや、羽ばたいていたというより、浮かんでいる。この妖精は羽を動かしていなかったのだ。
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