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東京都市部にあるとてつもなく広い家。
敷地面積は東京ドームに匹敵するほどで、日本庭園を模した庭が広がっている。
その中心には一階建ての和式風の家が建っていた。
趣のある玄関、その隣には長い縁側が続いており、和服を着た女中のような女性が数人忙しそうに歩いている。
まるで大きな旅館の様である。
ここは日本を代表する企業、霧谷コンツェルンの会長霧谷真一が住む豪邸である。
既に六十をいくつか越え、実権は子の霧谷一也に譲って自身は会長としてのんびり余生を過ごしていた。
そしてその大きな本邸から百メートルほど離れた場所に二階建ての一軒家が建っていた。
先ほどの和式風の家に比べると遥かに小さいが、それでも都内であればかなり大きな家だろう。
その二階の一室、白で統一された清潔感のある部屋に一人の少年が不機嫌そうに着替えをしていた。
身長は低く百六十センチ程度、短い亜麻色の髪を面倒そうに掻き揚げ、青い目を女中に注いでいた。
ぱっと見まだ十代前半に見える幼い顔立ちをしている。
やる気の無い、それでいて意外ときつい視線に睨まれつつも、手に持った紙に記されている内容を淀みなく伝えている二十代半ばの和服を着た女中。
その内容が少年にとって不機嫌になる元だったのだろう。
「それで僕の婚約者を決めたとお爺様が言ったんですか」
細く長い睫を若干上向きにしながら、冷めた声で女中に確認を取る少年。
少々苛立っているのか、白いシャツのボタンがうまく閉められないようだ。
「はい、さようでございます。響様」
しかし女中は慌てた様子も無く、平然としている。
それが響、と呼ばれた少年の苛立ちをより一層拍車かけている。
彼の名は霧谷響、十七歳だ。
現社長である霧谷一也の次男であり、ロシア人の血が四分の一混じるクォーターである。
全くお爺様ったら、隠居して暇になった途端いきなり変なこと考えるんだから。
僕はまだ十七歳、結婚もまだ出来ない子供なんだよ? いや、それ以前に高校生で婚約者が出来るってどこの小説の世界だよって感じ。
それにしたって唐突すぎ。あの頑固爺の頭の中には恋愛結婚という文字は存在しないのだろうか。
ぶつぶつと不機嫌に呟く響。
「で、その人の名前と年齢は?」
「響様もよくご存知の方ですよ。 ラフィルアお嬢様です」
「ラフィルア姉さんがっ!?」
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