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姿見で服装をチェックしつつ、これで腰に剣なんて持ってたらほんとに軍人だよな、などと思いながら響はカバンを手に取った。
そして部屋を出ようとしたとき、女中から声がかけられた。
「勝手に行動されますと、あとで会長からお叱りを受けるかと思いますが」
「勝手に行動しているのはお爺様だよ。全く人に何も聞かずいきなり婚約者などと何を考えているのか。とうとうボケが始まったのかな」
「今の発言は聞かなかったことに致します」
「だってあなたもそう思わない? 勝手に婚約者決められるって、今時ないよ」
「確かにそうですけど……」
ドアを開けて振り返りながら響は再び言い放つ。
「とにかく、お断り! じゃ、学校行ってくるから戸締りよろしく」
「行ってらっしゃいませ、響様」
響が階段を下りていく足音を聞きながら、ふぅ、と大きなため息をつく女中。
まあ取り合えず、自分の仕事は果たしたのだ。何分急な話であり響の反発も仕方ないだろう。
でも……意外とお似合いカップルになるかも知れない、と女中は心の中でそう思った。
■ □ ■ □ ■ □
響が学校に出かけた頃、彼の住んでいる家から凡そ徒歩五分。
一階建ての平屋では、と言っても軽く五十平米はありそうだが、一人の女性がキンキン声で呻いていた。
「あーーーー、もう上手くかけないっ!!」
長い綺麗な髪も今はぼさぼさ状態で、寝不足なのか目の下にうっすらクマが出来ている。
日本人離れした体型を持っているものの、着ているものは紺のジャージである。ちゃんとした服装をすれば、まず間違いなく人目を集める容姿だ。そんな勿体無い彼女の側には可愛らしい熊の人形が、立ったまま呆れたように首を傾げていた。
左手に小さなおもちゃの腕時計、右手にはペンを持っている。そのペンを指のない丸いてで、どうやってかは知らないがくるくると回している。
「主よ……そんなに叫ばなくとも聞こえておるぞ」
いくら可愛くても人形である。それがペンで遊びながら話しかけてきたら普通は驚く。だが、女性はそちらを見ることもせず、さらに叫び返した。
「あんたに言ってる訳じゃないわよっ! 不甲斐ない自分に叫んでいるのよ!!」
「ふむ、人間とはやはり分からぬ。頭の中で考えれば済む話なのに、わざわざ自分に叫ぶとは」
「もうあんたとは何年の付き合いよ? いい加減あたしの性格わかってよ」
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