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「三年二ヵ月と二十一日の十九時間五十四分十一秒になる」
「細かいねっ?!」
「現代人は時間に縛られる必要があると聞いたからな。我もちゃんと時計を持っておるのだ」
「いやそれ、おもちゃだから……」
しかし熊の人形は、ちっちっち、という仕草で手を横に振る。小さな子供が見れば目を輝かせながら喜ぶだろう。
しかしこれはタダの人形ではない。
この女性、ラフィルア=霧谷が三年二ヵ月二十一日十九時間五十五分〇九秒前に契約した悪魔が乗り移ったものだ。
そもそも霧谷家ははるか昔、それこそ数百年前に悪魔祓いの家系として皇族の庭番を務めていた。
しかし時は過ぎ去り誰もその事実を忘れ去った頃、ラフィルアが偶然家の倉庫に眠っていた壷の封印を解き、色々あった結果この悪魔と契約する事になった。
彼女がこの悪魔……テリウスに願ったのは一つ、小説家になりたい、だった。その代償は命、ではなく金だったが。
悪魔も俗物になったものである。幸いラフィルアの家は超が付くほど金持ちである。
契約は成立し、彼女はテリウスの力を借りて高校生で小説家としてデビューを果たしたのだが、ヒットしたのは最初の一冊だけでそれ以降は泣かず飛ばず状態だった。
「これではない。腹の中だ」
「ああそう……正確すぎる腹時計ね」
「どうだ我が主よ、エコな時計であろう? それより主の何が不甲斐ないのだ? 最近目立ってきた腹か? 運動すれば良いと我は思うぞ」
「あんた直球よね。まあちょっぴりお腹も気になるけど、それより小説が上手く書けないのが問題なのよ!」
「いつもの事ではないか」
「出版社からも何も音沙汰ないし。このままフェードアウトなんて嫌よ!」
それを聞いたテリウスが、何かを思いついたかのように手をぽんと打った。
本当に悪魔なのか気になるところではある。
「つまり主はもっと小説が上手く書けるようになりたい、そう言っておるのだな?」
「その通り! さっきからそう言っているじゃない。耳ついているの?」
「我は人形故に、飾りの耳しかないな」
ぴこぴこと頭の小さな二つの丸い耳を動かすテリウス。やはり子供が見ればきゃっきゃ騒ぐだろう。
この悪魔、就職先を間違えたに違いない。
「それより一ついい案があるぞ? 我が主よ、ちょっと耳を貸すが良い」
「……あんた本当に芸が細かいわね。別にそのままでいいじゃない」
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