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「壁に耳あり障子に目あり、と昔から言うではないか」
「はいはい」
テリウスが耳元で何かを伝えると、ラフィルアは暫し目を塞いで考えた。
しかし次に目を開けた後、「響、ごめんね。あたしの糧になって」とだけ呟いた。
■ □ ■ □ ■ □
「ラフィルア姉さん、居る?」
「あら響じゃない。どうしたの?」
学校から帰宅したあと、響は即効ラフィルアの家に訪れていた。もちろん用事は許婚の件である。
響が玄関のチャイムを鳴らして数十秒後、ドアが開きラフィルアが中から出迎えてくれた。
そして響は彼女の服装を見て、暫し唖然とする。
彼女が黒いローブを着ていたからだ。さらに頭にはとんがり帽子を被っていて、妙に似合っている。
「……えっと……何……それ……」
「ふふふ、どう? 可愛いでしょ?」
「え、あ、うん。きっとそうだね」
若干頬を引きつらせながら、何とか笑顔を取り繕う響。
響は知っている。ラフィルアは感情の起伏が激しいのだ。ここで彼女の機嫌を損ねたら、許婚の件がややこしくなるだろう。
「で、どうしたの突然。まあ玄関じゃ何だし上がって」
「はい、お邪魔します」
靴を脱いで家の中へと入る。
ラフィルアの家は二つの洋室とダイニングキッチンの三部屋のみと、霧谷家としてはかなり小さい。
響など次男なのに、三階建ての一軒家に一人で住んでいる。いや、専属の女中が三人いるが。
これは祖父の方針で長男が本宅に住み、それ以外は敷地内の開いている場所へ家を建て各自住む、という祖父である霧谷真一の方針だ。そして大学を卒業後、霧谷コンツェルンのグループ会社へ就職と決まっている。
ラフィルアが例外なだけである。
和室に通された響は、ちゃぶ台の前にある座布団へ座り込む。
ラフィルアが持ってきたお茶が目の前に置かれ、それを手に取った。
しかし相変わらず渋いチョイスだよな。
このちゃぶ台など、どう見ても数千円も出せば余裕で買えそうなのだが、確か一流の職人が作ったもので、十万くらいはするはずである。
響が座っている座布団も軽く数万、下手をすれば十万越えするし、お茶が入っている湯のみも有名な何とか焼きで一つ数万だ。
ラフィルアは見た目は質素だが、実は高級品というのを好んで使う事が多い。
しかし箪笥の上に飾られている熊の人形だけが浮いていた。
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