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確かに見た目は可愛いが、彼女の趣味とは何かが違う。それに高級品という訳でもなく、一万円も出せばお釣りが来るだろう。
いや、ラフィルアだって女性だ。人形の一つや二つ持っていても不思議ではない。
不思議ではないのだが、妙にひっかかる響だった。
「で、何か用事?」
人形を横目で見つつお茶を飲んでいると、そうラフィルアが尋ねてきた。
「そうそう、お爺様から聞いた? ラフィルア姉さんと僕が婚約しろって話」
「え? 何それ?」
「やっぱり聞いてないのか」
「あのクソジジイ、また余計な事考えてるんだね。よしわかった、姉さんに任せとき!」
「ちょ、ちょっと!! ストップ! ストーーーップ!!」
ラフィルアはどこからともなく取り出した一本の年季の入った金属バットを持って部屋から出て行こうとするのを、響が一生懸命止める。
「何故止めるの?」
「そんなものどこから取り出し……いや、それよりもそんなバットどうするの?!」
「バットはボールを打つ道具よ? そんなことも分からないの?」
「知ってるけど、ボールなんて無いよ?!」
「あるじゃない。ちょうど本邸に、つるつると光ってるサッカーボールくらいの大きさのものが」
「それお爺様の頭だよね?!」
「これで一発ホームランすれば、ボケた頭も元に戻るんじゃない?」
「戻るどころか、ぐちゃっと潰れて無くなるよ!!」
響は何とかラフィルアを引きとどめようと彼女の腕を掴んだ。
しかし意外に力強く、そのままずるずると引きずられていった。
確かに身長は二人とも同じくらいだが、さすがに男なのにも関わらずラフィルアに引きずられる響は自分の力に自信が無くなった。
「はぁ、まあ響がそこまで止めるなら仕方ないわ。とりあえず後で拳で語り合ってくるわよ」
そしてラフィルアは再びどこからともなく、鈍い銀色に光るメリケンサックを取り出し右手に嵌める。
何故か少し赤黒く汚れているのが気になるところだ。
「いやそれって思いっきり凶器だよねっ?! 語り合う気さらさらないじゃん!! 素手の拳の攻撃力が十としたら、それって五十五くらいありそうだよね?!」
「鉄じゃなくて銀だから。意外と柔らかいし、多分三十五くらいよ」
なぜかうっとりとメリケンサックを見つめるラフィルア。
少し上気しているのか、頬を赤らめている
黒いローブ姿でメリケンサックを見つめる美女。ある意味シュールである。
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