3人が本棚に入れています
本棚に追加
「ってそうだ、響と遊んでいる場合じゃないんだ」
「僕、遊ばれてたの?!」
「だって久しぶりだし。二年くらいまともに会ってないんじゃないかな」
「うん、それくらいかも」
特にラフィルアが高校を卒業し、この部屋に入ってから殆ど顔を合わせていない。
「で、あたしからも響に一つ頼みたい事があるのよ」
その言葉を聞いて響は少し不安になった。
昔なら、頼みたいことがあれば何も言わず強制的にやらされていたからだ。それをわざわざ説明してくるとは、何かがある。
ラフィルアも既に二十歳、成人しているし多少は大人になった、と一瞬だけ頭を過ぎったが、先ほどの行動を見る限りとてもそうは思えない事に気づいた。
しかし、響のほうも許婚の件でラフィルアにも断るよう頼みに着た手前、彼女の頼みごとは断りにくい。
「うん、いいよ」
いいよ。
その返事をしてしまった響は、これから酷く後悔する事になる。
「響、言ったわね。もう取り消しは不可能よ。テリウス、契約成立よ」
ラフィルアがテリウス……熊の人形に乗り移った悪魔の名を口に出す。
すると箪笥の上にいた人形が淡く光だし、そしてぴょんとちゃぶ台の上へと、無駄に華麗に飛び降りた。
「え? え? なに?」
「坊主、悪いな。我が主との契約により汝、霧谷響を転移する」
びしっと短い腕を響へと向けた途端、響の足元、畳の上に妖しく光る丸い輪が、そしてその中に三角形が二つ、所謂六芒星が浮かび上がった。
「ちゃんと後で説明するから、ごめんね」
「ね、姉さん何を?!」
嫌な予感がした響は慌ててその場から動こうとするが、足が何かに固定されたかのように動かす事が出来ない。
その響の目の前でラフィルアがローブの中から紙を束ねたものを取り出した。
そしてその紙の束を響の足元に置く。
「いいわよテリウス」
ラフィルアがテリウスを促す。熊の人形をが短い腕を必死で複雑に交差させながら、呪を紡ぐ。
<古き魔の血を受け継ぐものよ、戯曲を描かせ伝えよ、我テリウスにより汝に与えん>
完成と同時に眩いばかりの光があふれ出し、そして響を飲み込んでいく。
「な、何これ?! 特撮?! 手品?!」
「響、行ってらっしゃい。あたしの為に楽しい物語を紡いでね」
ラフィルアの言葉を最後に、響の意識が薄れ、そして完全に落ちた。
最初のコメントを投稿しよう!