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携帯電話の真っ黒な画面を見る。
そこには狼狽した自分の顔が映るだけで、端末は黙り込んだままうんともすんとも言わない。
脂汗が滲む、午後三時。
立ちすくむその長身を迷惑そうに避ける人混みに目を向けるが、恋人の姿は一向に見当たらない。
「最悪だ…」
呟いたところで、誰の耳に届くわけでもなく。
橘恭平は、恋人である佐野真祐と、少し足を伸ばして地方都市のはずれに位置する街にデートと称して遊びに来ていた…はずだった。
はずだったのに、なぜ。
いつの間にか離ればなれになっていて、携帯も充電切れときた。
置いていかれるのも、放置されるのも、二人の経験上何度もあったことだが、回数を重ねたからといって、この泣き出しそうな気持ちに慣れることはない。
しかも、今回は見知らぬ土地で、だ。
黒い画面を見つめて、またループ。
携帯のボタンはカチカチと虚しく音を立てるだけで、光は一向に灯らない。
ここまで頑固に反応しないとなると、内部がやられているんじゃなかろうか、と恭平は半ば八つ当たりに近いような気持ちで携帯を睨み付けた。
しかし携帯に罪はなく、充電を怠った自分の責任である。
そもそも、こんな年になってまで迷子になる自分の自己管理能力のなさが一番の問題である。
「でも、いつはぐれたんだろう…?」
それすらも、分からない。気が付けば隣にいなかったのだ。
もしかしたら、真祐が突然方向転換したのかもしれない。
あの冷静沈着な真祐がそんな突拍子のないことをするのは想像がつかないが、時々何を考えてるのか分からないのも彼だ。
よって、可能性はなきにしもあらず。
平日だというのに、街は人々の話し声や客引きの声で溢れている。
うんざりするような喧騒に、恭平は大きく息を吸い込んで飛び込んだ。
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