第1章

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「入りましょうか」 と返事を待たずに、九十九が施錠された扉を鍵で開けて入っていく。立会人というけれど、もしかしたら私が断っても、この男は勝手に入ったかもしれない。 「特に変わったところはありませんね。てっきり私は怪しげな札などが所狭しと張られてるイメージがあったんですけど」 玄関から続く、廊下を見ながら九十九は言った。 「玄関から見ただけじゃわからないんじゃない?」 「そうでもありませんよ。玄関にだって手がかりはたくさんあります。安本さんは一人暮らしだったみたいですね」 靴箱を開きながら、九十九が言う。大きな靴箱なのに、中に入っている靴は少ない。外出用と仕事用の靴が靴箱の上のほうにちょこんと置かれているだけだ。 「買ったばかりだから当たり前なんじゃないでしょ? まぁ、一人暮らしにしては、この家は大きすぎると思うけど」 「もしかしたら、誰かと一緒に暮らす予定だったんじゃないですかね。たとえば恋人とか」 「へぇ、安本に、そういう相手がいたの? 探偵さん」 ムムッと眉をひそめて、尋ねると九十九はヒラヒラと手を振って部屋に上がり込んでいく。一つ一つ部屋を調べていくがら特にこれといった異変はない。何度も 不幸な事件が起こった家なのかと疑いたくなる。 「さて、最後は寝室ですか」 心の準備は整ってますかと、九十九が振り返り尋ねてきた。 「大丈夫。早く調べよう」 ええと九十九が返事をすると同時に扉を開いた。寝室はカーテンが閉められていて薄暗い。 「他の部屋とは違って、ずいぶんと散らかってますね。これはノートの切れ端、こっちは、酒瓶」 他の部屋とは違い、安本の寝室には、人がいた空気があった。他の部屋は荷物などがあっても、ただ、置かれているだけで使われているだけみたいなイメージがあった。 「ほら、さっそく手がかりがありましたよ」 九十九は、散らばっていたノートの切れ端を広げてこちらに向けてきた。そこにはびっしりと鉛筆で意味不明な文字が書き込んであった。 「貴方、探偵だったんでしょう? 安本が、こんなになってたのに貴方は気づかなかったの?」 「私の仕事は、不審者探しでしたからね。家の内部までは問題外だったんですよ。それに安本さんから、家の内部は見ないでほしいと頼まれていたから、私も、この家に入るのは初めてです」 ガシャガシャと部屋を捜索しながら、九十九は一冊のノートを見つけた。
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