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遠からずに貴女の耳にも入ることになる。そうなってしまえば、破滅だ」
九十九の言葉が遠く聞こえた。いや、そんなのはおかしい。だって、安本は、
「安本はずっと苦しんでたんだ。そもそも、この家だって貴方が事前に用意して、私を騙すために」
「なぜ?」
しかし、九十九はすぐに切り返してきた。
「なぜ、私が貴女を騙す必要があるんですか? 私は安本さんに依頼されて、この場にいるだけですよ。それに、ここ一面に広がる写真は、長く付き合いの安本さんにしか用意できないんじゃないですか?」
そうかもしれない。こんな写真を用意できるのは、長年、付き合いのある相手にだけだ。でも、だけれど、
「信じられないよ」
「信じられないのなら、後ろの人に聞いてみたらどうですか?」
後ろ? ゾワリと背筋に冷や汗が流れて、だれかの笑い声が聞こえた。トントンと背中を叩かれ、思わず振り返ってしまった。
隠し部屋の扉をびっしりと塞ぐように、真っ黒な影がまとわりついていた。その隙間から巨大な目玉がギロリと覗き、歪な口がゲラゲラと笑い声を上げた。
『ずっと一緒。ずっと一緒、安室と一緒!!』
『他の男と、一緒に居させない。俺だけの安室、安室、安室、安室。いつか、ずっと俺と二人だけで暮らすんだ』
クスクス、クスクス、クスクスと笑い声が響き渡り、真っ黒な影が私、めがけて迫ってくる。
「いやっ!!」
影を振り払い、部屋の奥に逃げ込んだ。いつの間にか、隠し部屋は大きな迷路ように広がっていた。
『アレ、アレがくる』
安本の繰り返し、呟いていた言葉が脳裏に響く 。あの黒いのが安本の言っていたのが、あれなのか? グルグルと混乱する思考を振り払い。
「九十九さん!! 九十九さん、どこにいるんですか!?」
不吉な男の名を呼ぶが、彼はどこにもいない。幅広い迷路がどこまでも広がっている。曰く付きな部屋を調べてみれば、隠し部屋を見つけて、知りたくもない事実を突きつけられた。私が何をしたんだと叫ぶが、その声に答えてくれる奴はどこにもいない。目の前に広がるのは、だだっ広い迷路だ。
「ひっ!?」
迷路の曲がり角を曲がった先には、待っていましたと言わんばかりに影が待ち構えていたと言わんばかりに、真っ黒な影が私を包み込んだ。 グチャリと髪の毛が私の身体に絡みつく。
生ぬるいお湯に身体を浸からせたときのような妙な不快感が全身を覆い尽くして、私の右足をグニャリとへし折った。
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