Tale.1<影との遭遇>

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「…よし」 たっぷり数分間、鏡と睨めっこをしていた私は、やっと身なりを整え終える。 サラサラの黒髪ストレートを梳いて、白いカチューシャをつける。新品のブレザーに袖を通したら、鏡の前でくるりと一回転して回ってみた。 「…うん、OK!」 鏡に映る少女は、満足げに微笑んだ。 机上に置かれたファンシー調の時計を見て、ギョッとする。 年頃の女子にとって、身だしなみに時間を費やすのは当然だが、少々時間をかけ過ぎたようだ。 「急がなきゃ!」 独り言しつつ、階段を駆け下りる。 そのまま玄関に向かうかと思えば、彼女は玄関とは反対のリビングに足を向ける。 「…行ってきます。お母さん」 少女は、電子ピアノの上に置かれた写真に笑顔でそう告げ、パタパタと走っていった。 写真の中で優しく笑うその女性の笑顔は、少女とよく似ていた。 ☆ ──私は白金真珠(しろがねまじゅ)。中学二年生。 お話を作るのが趣味! …といえば聞こえはいいけど、はっきり言って妄想癖が激しすぎるだけ。   玄関の扉を施錠し、家を飛び出す。 まだまだ慣れない通学路を疾走していくと、中学校が見えてきた。 白い校舎。中も綺麗で設備も整っている。 ──ここは、帝光中学校。 あちらこちらには、私と同じように白いブレザーに身を包んだ生徒たちが校門を行き交う。 「…ま、間に合ったぁ…」 生徒たちの姿を視認した私は、朝っぱらからダッシュしたせいで、息を切らし、ヘロヘロになりながら、校門をくぐる。 そして、改めて視界いっぱいに広がる校舎全体を見渡した。 「うわぁ…」 感嘆とも、緊張ともとれる声色で、言葉を漏らす。 ここが…帝光中。 今日から、私はここの生徒になる。 ──白金真珠。13歳。 一身上の都合により、4月からこの中学校に転校となりました。 ……これから先、どんな中学校生活が待っているのかすら知らずに。
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