第十章

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----一ノ宮麗side---- 人生で、1番最悪な瞬間だった。 一瞬目が合ったが、何事も無かったかのように目を逸らした。 そしてその後は、目の前に凛太郎がいる状況で俺は…星野くんの手を取り、引き寄せる。 客席がどうしても見れなくて。 星野くんに指定されたポージングが一通り終わり、舞台裏に向かう前に客席を見たが、凛太郎を見つけられなかった。 いや、多分もう、凛太郎はいなかった。 舞台裏にはけ、星野くんの手を離す。 次の瞬間急激な目眩に襲われた。 ありえない。本当にありえない。 「先輩、大丈夫ですか?」 そう言いながら、その場にしゃがみこむ俺の手を握ってくる星野くん。 「…あぁ。」 「最高でしたね!柊木先輩もしっかり最前列で僕たちのこと見てましたね!」 「…凛太郎は関係ないだろ。」 「なんでですか?僕たちがラブラブだってこと見せつけないと、あの人いつまで経っても勘違いしたまんまなんで。」 …あぁ。 やっぱり星野くんは狂ってる。 何がラブラブだ。 どうしたらその思考になるんだ。 修学旅行から帰ってきてからこの地獄がずっと続いている。 あらゆる手を使って俺とどうこうなろうとしてくる。むしろどうこうなっていると錯覚している。 気付いたら外堀から固められていた。 知らなかったが、星野くんのお父さんと俺の父は大学からの知り合いらしい。 修学旅行から帰ってきてすぐ、実家から呼び出しを食らった。 何かおかしいと思いつつ、実家へ向かうとそこには星野くんがいたのだ。 大事な取引先の子だから仲良くしなさいと。 最悪な縁だった。 そんなの知らない、俺の勝手だと言えたら良かったが、凛太郎のお父さんが働く会社の親会社も星野くんのお父さんが関わっていると、遠回しに脅された。 そして、凛太郎と関わるな、誰にも言うなと。 意味がわからなかった。 何でそこまで星野くんに縛られる必要があるのか。 思った以上に星野くんは頭のおかしい人だった。 借り物競争での発言にはさすがに物凄い形相を向けられたが、パフォーマンスだと誤魔化した。 あそこで嘘だけは付きたくなかった。 死んでも凛太郎以外の人を連れていきたくなかったから。 体育祭不参加なのは分かっていた。 だからまさか、コンテストを見に来るなんて思わなくて。 あれを見られたと思うと吐き気が襲ってくる。 あとは閉会式の挨拶のみ。 今すぐ帰りたい。 でも帰りたくない。 帰る場所が同じだからだ。 凛太郎と同室の時は、一刻も早く帰りたい場所だったのに。 今では1番居心地の悪い場所。 最近は生徒会室で過ごすことも多くなった。 …卒業するまで俺は、凛太郎と関われないのか。 絶望しかない。 このまま俺は凛太郎に忘れられるんじゃないかという不安でいっぱいだった。 end
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