山に散る花火

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景壱から手を離させようとしたのか徳善が山姫の手に触れた瞬間、偶然、景壱の右手が彼の手に触れた。 「何だ……これは、この思いは?」 気付くと徳善は光の差し込まない闇の中に居た。 すると目の前に男が、しゃがみ込み何かを呟いている。 「怖い、怖い。知りたくない。こんな醜い私を、酷い仕打ちをした私を彼女は恨んでいる。そんな気持ちを知りたくない。嫌だ嫌だ嫌だ」 その声を聞いて徳善はぎょっとした。目の前の男は自分自身だと分かったからである。 山姫に対する負い目や、臆病な気持ちが自分自身に目隠しをする様な形になり、彼女の心を読めなくさせていたのだと徳善は理解した。
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