1477人が本棚に入れています
本棚に追加
/210ページ
玖珂と同じ高校生だったらいいのに
と考えたこともあったけど、きっと俺にはこれでちょうどいい。
そして玖珂にとっても、おそらくこれが一番いいだろう。
「世の中、案外うまくできてるもんだな。」
「はい?」
俺の唐突な言葉に首を傾げた玖珂に、俺は何も答えずにただ肩を竦める。
大人の小狡さを身に着けた今だからこそ、俺はこいつと向き合えるんだと思う。
そう考えると、やっぱり世の中は意外とうまくできてるものだと感心してしまう。
玖珂は俺に手を伸ばし、遠慮がちに指先に触れてきた。
冷めた表情とは裏腹に、はっと息を飲むような熱を帯びた指はゆっくりと俺の指に絡み、最後には手のひらごと包んでくる。
触れあう手のひらで互いの鼓動を感じ、その鼓動がどちらからともなく次第に駆け足になっていくのは気恥かしくて、同時に心地よかった。
玖珂は黙って俺を見つめ、何かを言いたげに視線を揺らす。
その熱をはらんだ視線は、うちで誇らしげに咲いている真っ赤なガーベラに少し似ている気がした。
「先生、好きです。」
もう何度聞いたか分からないその言葉のあと、手の甲に控えめなキスが落された。
18歳の玖珂なりの思いやりなのか、返事を求めてくることはない。
ただ、いつもほんの少し、
本当に気づかないくらい少しだけ不安げに視線を揺らすのだ。
普段は何にも心を動かされないんじゃないかと疑うくらい淡々としていて、何かに動じることもなく、妙に落ち着き払っているくせに、俺の前ではこんな顔をする。
ガラス製の“18歳”は、そうしてやがて大人になっていくだろう。
「そうだな、俺もお前のこと、」
俺が切り出した言葉に、玖珂は目を見開く。
短い俺の言葉を最後まで聞いてから、ふっと表情を緩めた玖珂は珍しく、くしゃりと頬を綻ばせた。
それから言う。
「俺も、先生のこと大好きです。」
end.
最初のコメントを投稿しよう!