エピローグ

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夏休み中はバスケの大会ばかりで勉強する時間も少なかっただろうに…… 「よく頑張ったな。」 とくに意識するでもなく玖珂の頭を撫でると、玖珂の頬にさっと赤味が指す。 さすがに“頭なでなで”は子ども扱いしすぎだろうか?  手を離そうかという一瞬の迷いが浮かんだとき、玖珂は控えめに俺の手に頬を摺り寄せてきた。 その仕草が実家で飼っていた大型犬似ていて、俺はつい笑ってしまう。 硬くてまっすぐな髪はうちの犬とは全然違うが、心地よさそうに目を細める表情なんてそっくりだ。 身長が190cm近い男を見て「可愛い」もないだろうと思っていたけど、なんだか可愛いかもしれない。 ……まあ、こいつの場合「めんどくさい」がやや勝るが。  そんなことを考えながら玖珂の頭から手を離すと、玖珂がぽつりと言った。 「このまま気を抜かずに勉強を続けます。それで必ず合格します。」 「そうだな。しっかりやれよ。」 「はい。……あの、先生?」 「ん?」 「俺が前にあげたガーベラ、あれどうなりました?」 「ああ、お前前にうち来たとき見なかったのか?」 「え?」 「寝室の……。」    言いかけて咄嗟に口をつぐんだのは、玖珂と自分が寝室でなにをしたのかが頭の中に蘇ってきたからだ。 枕元に置いてある植木鉢を悠長に眺める余裕なんて、俺にもこいつにもなかった。 玖珂にもそれが分かったのか、わずかに口角が上がる。 「すいません、気が付きませんでした。」 わざとらしい言葉に一瞬羞恥心を煽られたが、それは一過性のもので、すぐに恥じらいは消えていった。 「そうだな、お前かなりがっついてたもんな?」 今度は玖珂が赤面する番だ。 普段は表情に乏しいくせに、こういう時は分かりやすい。 「それは……しかたないでしょう。高校生なんてそんなもんじゃないですか?」 恥かしさを隠すためなのか口元を手で隠した玖珂は、小さなため息をつく。  こういうとき、こいつよりも十歳年上でよかったと心底思う。 もし俺がこいつと同い年だったら、きっと四六時中こいつに振り回され、いっぱいいっぱいになって、きっとすぐにだめになっていた。
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