第1話 小波一球は踏み出す。

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第1話 小波一球は踏み出す。

1  春風が桜の花を紺碧の空へと誘うような強い風が吹き付ける四月。ボクはいつものように目が覚めない重たい瞳を半開きにしながら街の外を歩いて行く。  中学生になるという事もあってか、着慣れない学ランに違和感を感じながら街の景色を眺めると、そこに・・・。 「――おはよう、一球くん!」 「おはよう、紺野」  名前を呼ぶ可愛らしい声。ボクの名前を呼んだのは、栗色に染まった髪をポニーテールで纏めて、百四十三センチであるボクより少し背が高く、パッチリと二重でまつ毛が長く、ニコリと笑った笑顔がとても特徴的な女の子・・・名前は紺野 美崎だ。小学生の頃に出会って以来ずっと同じクラスであり、また中学も同じクラスになった。何かと縁を感じるがあまり特別意識はまだ、していないので悪しからず。 「今日から中学生だね! 野球好きな一球くんはもちろん野球部に入部するんでしょ?」 「まあね。それに一年の内はレギュラーにはなれないだろうから・・・基礎作りに励むしかないだろうな~」 「そうかな? 一球くんなら直ぐレギュラーになれると思うんだけどな~」  チラッと紺野はボクの顔を見た後に、ニコリと笑みを浮かべる。ま、言いたい事は何となく分かる気がするよ。  ボクが小波 球太と早川 あおい・・・球界を代表するピッチャーの息子だからだろう。紺野はその事を唯一知っている人物だ。何で他の人は知らないのか? ボクから言いたくないだけなのだ。二人の血を引いてると言えば贔屓だって受けかねないし、からかわれるかも知れない・・・・・・厄介事はゴメンなのだ。何事も穏便に済ませて行きたいし、なによりレギュラーは自分の実力で掴み取りたいと言う思いが強いのだ。 「それより、最近聞かないよね~。ナントカ世代って言うの」 「ああ、猪狩世代、友沢世代、東條世代って言うやつね。ま、それもそうだよ。東條世代以降はあまり目立たない人達ばかりだったからね」  後ろ頭に手を組んでボクは言う。
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