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「球太くん!?」
「あおい・・・・・・」
黄緑色の艶やかな髪に、出会った頃から変わらない可愛いらしいおさげをぶら下げて私服を見に纏う女性・・・俺の彼女の早川あおいだ。
驚いた顔を見せて、なんとなく俺の行動に勘付いたのかクスッと笑みを浮かべる。
「慌てて帰って来たんでしょう? オマケに鍵も忘れて来ちゃったって事はよっぽどだね」
「―――ッ~! 何も言えねえな。てか、笑うんじゃあねえーの!」
「だって、学生時代はあんなに洞察力と判断力がズバ抜けて優れていた球太くんなのに、珍しくて」
「・・・・・・仕方がねえだろ。お前に伝えたい事があったから急いで帰って来たんだ。お前の最後の試合がある事も忘れちまう程・・・な」
「話したい事・・・? も、もしかして!」
「ああ、津々家バルカンズ一位指名だ。聖も同じバルカンズで三位で神楽坂は一位で猪狩カイザースだけどな!」
俺はニカっと笑って言った。すると、目の前に立つあおいは青い瞳に涙を浮かべて俺に抱きついて来た。嬉し泣きってやつだ。
「おっ・・・おい、あおい。スーツがスーツが!」
「うっ・・・・・・うう・・・」
聞こえちゃあ居ねえか・・・そうだもんな。俺は今まで遠回りしてようやくここに辿りついたんだもんな・・・・・・。
俺はそっと目を閉じる。
そして、思い出した・・・あれは高校三年生の夏の大会の事だ。
肘の怪我の悪化は猪狩守の弟である猪狩進を事故から救った事から始まった。その衝撃で肩と肘を側溝に打ち付けてしまい、また無理なピッチングのせいで限界を超えていた・・・・・・。
「そこまでして意味があるの?」
当時、決勝戦の途中、俺はアンダーシャツを取り替えるためにベンチの裏にある更衣室で着替えを済ませていると、当時、恋恋高校の野球部の監督を務めていた保険医の加藤理香改め、加藤先生が問いかけた。
「もう・・・ボロボロじゃあないの・・・」
「俺はまだ投げれます!」
「あなたの夢は・・・プロ野球選手になることでしょ!? その夢を自分の体と共に潰す気!?」
「プロならとっくに諦めてます。それに・・・夢を託す人ならもう居ますから・・・」
「ま、まさか早川・・・・・・さん?」
「はい。あおいの夢は、俺と同じだったから・・・アイツに俺の夢を託そうと思って・・・だから俺は最後まで投げたいんです!」
言い切った俺は・・・マウンドで倒れた。
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