零章ー prologueー

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 そのまま倒れた俺は、医務室に運ばれて医者に言われたのは「もう、野球が出来ない」と言うことだった。私生活にも支障をきたす腕になってしまい、俺は野球から身を引いて、代わりにあおいは俺の意思を受け継いでプロの道へと進んだ・・・・・・。  だが、諦めの悪い俺は卒業後すぐに左投げの特訓を始めるんだけど・・・これはいいか。  とりあえず、あれから5年の月日が経ったのか。意外と短くて長かったもんだな。なんて思いながら、ゆっくりと閉じた瞼を開くと、まだあおいは俺のスーツに顔を埋めて涙を流していた。 「おいおい、いつまで泣いてんだ? ――ったく、 早く家に入ろうぜ」 「うっ・・・・・・う、うん」  玄関に入り、靴を脱いでスリッパに履き替えて電気を付けた。俺は真っ先に綺麗に整った十畳のリビングが見える。伊達に高い家賃を払ってるわけじゃあないと頷ける程の広さだ。そして二人掛けのソファーに腰を沈ませて、俺はネクタイを外した。  すると、あおいも隣にちょこんと腰をおろす・・・。泣き止んだのか、目の周りは少し赤く腫れてはいたがニコッと笑みを向けてきたので大丈夫だと安心する。 「球太くんもいよいよプロか・・・」  ポツリとあおいが言葉を漏らして、少し顔を曇らせて寂しげなトーンで呟いた。 「ボクも・・・出来れば同じチームで一緒にプレイしたかったな」 「・・・・・・・・・」  ズキッと・・・・・・俺の中では胸が少し傷んだ。あおいは今日の試合が五年間と言うあまりにも短いプロ野球選手としての最後の登板となったのだ。  理由は一つ。あおいの投球フォームは今でも珍しいアンダースローだ。男性と女性の筋肉を幾ら付けようともその付き方の差は明白である。  それでも負けず嫌いな性格でもあるあおいはトレーニングを続けた。男子に負けたくないと言うあおいの思いと、俺の夢を背負ってまで諦める訳には行かないと言う使命感・・・・・・。  あおいの膝はもう限界だった・・・・・・。度重なる疲労骨折と言う故障・・・・・・今年のペナントレースが始まった翌日に、あおいはプロの引退を決意した。    こうなる事を俺は分かっていたのかもしれない・・・・・・俺の夢を背負わせた事で抑えると言う歯止めが無くなり、引退を決意させてしまったのではないのか、と・・・。  それでもあおいは、俺を責めずに笑って居てくれた。
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