166人が本棚に入れています
本棚に追加
土方さんの部屋から出た私は、夜ご飯の食材を買いに行くために金子と籠を持って勝手口から外へ出た。
勝手口から庭を通り、表門を抜けて行く途中。
井戸端に藤田さんが居た。
「藤田さん……?」
着物をはだけて、上半身だけ裸であった藤田さんの身体は、所々痣や赤く腫れ上がっている。
特に腕や脇は酷くて私は、彼の元へと走り寄った。
「藤田さん、その怪我……っ」
「ああ……秋月か。まさか、見られてしまうとはな……」
「誰かと喧嘩でもしたんですか!?」
「まさか……。ただ稽古でボコボコにされているだけだ」
苦笑いを見せる藤田さんは、井戸の水で赤く腫れ上がっている痣や擦り傷を洗い流す。
もしかして、前に藤田さんの肩に触れた時に避けられたのって怪我をしていたから……?
どうして気づかなかったのだろう……っ。
いつも仕事で一緒に居ておきながら!!
「すぐに手当てしましょう!!早く言ってくださいよ!!」
「いや、気にするな。自分で何とかするから、秋月は……買い出しだろう?行ってくると良い」
「でも……っ!?」
「口閉じて」
一歩前へ出て、手当てをしようと連れていこうとするが、藤田さんは首を振る。
挙句には、水で濡れた人差し指を口に添えられて私は、口を閉ざすしかなかった。
「やはり普段から鍛えている人と、普通のサラリーマンじゃ違うんだ……。困ったものだ」
「・・・」
「剣術の稽古も所詮、人を斬るための稽古に過ぎない。だが、その反面、この時代を生き延びるための稽古でもある。怪我だってするだろう」
濡れた唇に添えられた藤田さんの指が離れていく。
彼は、私から顔を背けると痛々しい腕を水で冷やした。
その様子をただ眺めることしかできない自分が悔しい。
そう思っていると木箱と徳利を持った永倉さんが裸足のまま廊下から庭ヘ降りて私達の元に寄ってきた。
「ほら、酒と包帯だぜ、総一!!」
「え、何でお酒……?」
「アルコール消毒と同じとい……っ!!」
「そういうことね……」
永倉さんは、井戸縁に木箱を置き、徳利を傾けて手の平に溜めて、藤田さんの傷口に思いっきり掛ける。
アルコール臭が辺りに漂い、藤田さんは傷に滲みるのか顔をしかめた。
最初のコメントを投稿しよう!