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今にもバラバラになってしまいそうに劣化した冊子と藤田さんを見比べた。
「俺の先祖が斎藤一を改め、藤田五郎なんだ」
「え?それ、ほんとですか?」
「あははは……俺を疑ってるのか?俺も正直信用してないが、俺のじいちゃんに小さい頃から言われていてな、信用するしかなかった」
「はあ……」
少し困ったような顔をしながら笑う藤田さんを一瞥して、沖田総司が書いたとされる日記をペラペラと捲ってみた。
墨で書かれた繊細な文字。
しかし途中からは、文字の文体が変わり、別の人が書いたというのが分かる。
もちろん江戸時代の文字は、読めないから何が書いてあるのか分からない。
「で、どうして今になって、こんな物を出してきたんですか?今までにもこれを題材にして記事にすることができましたよね?」
「確たる証言ができる人を見つけたんだ」
「はい?」
「ちょうど秋月が開いているページを見てほしい」
読めない文章を眺めても何も分からない事を知り、顔を上げて藤田さんに問いかけると彼は、ある一文を指差した。
私は、首を傾げてその一文を凝視する。
あ……。
桜、井……こはく?
誰かの名前だろうか。
漢字と平仮名で書かれた名前に気づき、私は藤田さんを見つめた。
「こんな偶然があるのか。昨日、俺の助けた高校生と同じ名前だった」
「え?そんなことで!?ちょっと藤田さん、こんな幕末に記されている名前の人が平成にいるわけないじゃないですか!時代が違い過ぎますよ」
「そうかもしれない。だが、何となく分かる……。彼女と日記に書かれた彼女は同じ人物だということ……」
「呆れた……」
まるでどこかの御伽話か夢物語かのような非現実的な話に私は、溜息を吐きながら首を左右に振って歩き出した。
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