浅葱者

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「う、そ……」 藤田さんが差し出した例の日記に彼女は、驚いたのか口元に手を添えて、片方の震える手でその日記に手を伸ばした。 演技でも何でもない。 この子は、この沖田総司の日記を知っている。 私がネットや本で調べても無かった日記を彼女は知っていた。 「斎藤様が……大事に残してくれたんですね……」 「琥珀さん、貴方は平成から幕末へ行ったんですか?その様子だと、この日記に出てくるのは……」 「私です……。私、交通事故にあって……その間、幕末で四年間過ごしていました」 彼女の目は嘘を付いていない。 懐かしそうに目を細めて、沖田総司の日記のページを捲った。 藤田さんをチラリと見ると目が合い、満足そうに笑みを浮かべて頷く。 その笑みに私は勘付いて、鞄からメモ帳とペンを取り出した。 「琥珀さん、僕達にその幕末へ行った話を詳しく聞かせてくれませんか?」 『ざっと話せば、そんな感じです。信じてもらえなくても構いません。ですが私にとっては、かけがえのない思い出で……忘れられない四年間です』 藤田さんの要望に琥珀さんは、楽しそうに幕末での話をしてくれた。 彼女の目に曇りはなく、本当にそこに行って過ごしてきたようだった。 琥珀さんの話が終わる頃には、窓の外は暗くなっていて、そこの病院の看護師にそろそろ帰ってほしいと言われてしまった。 彼女にはお礼と早く良くなってくださいと言葉をかけて、病院を後にした。 「俺の言ったとおりだったな」 「信じたくないですけど、あの子の表情とか話の内容を聞いていると本当っぽいですよね」 藤田さんと肩を並べて歩き、彼女について話をした。 「ちゃんとメモを取ってくれたか?」 「はいはい、取ってますよ。もうバッチリ取ってます。何年、藤田さんと同じ仕事をしてると思ってるんですか」 「……ありがとう。頼りにしてる」 「……っ」 私がいつものように返事をすると藤田さんは、私の頭を優しく撫でてくれた。  
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